セミナー等

過去のセミナー等をご紹介いたします。2012年~

昨年度アクションリサーチの理論や方法を学ぶセミナーを開催し多くの方に参加していただき、多様なニーズがあることがわかりました。そこで今年度、引き続きアクションリサーチを基礎から学ぶための入門編(講義型)とアクションリサーチを論文にするワークショップの2回セミナーを企画しました。 

1.アクションリサーチ入門 -実践家のためのアドボカシー講座(第2弾)

日 時:2019年11月10日(日)10時~12時(9時30分開場)
場 所:帝京大学板橋キャンパス(東京都板橋区加賀2-11-1) 
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 20191110日(日)帝京大学板橋キャンパス大学棟本館 209教室にて、学会主催セミナー「アクションリサーチ入門-実践家のためのアドボカシー講座(第 2弾)-」が開催され、72名の参加者が集まりました。本セミナーは、好評を博した 20191月実施セミナー参加者の多様なニーズにこたえるため、まずはアクションリサーチの理論や方法を学ぶ入門編として企画されたものです。
 中村正和学術委員会委員長の開会挨拶の後に、上地勝学術委員(茨城大学)と助友裕子学術委員(日本女子体育大学)を総合司会として、芳賀博氏(桜美林大学大学院教授)より「住民主体の活動を促すアクションリサーチ」と題した講演が行われました。
 芳賀氏の講演では、健康日本21をはじめとする国や自治体の健康政策の中で、住民主体の地域づくり・まちづくりへの期待が高まっていることに触れた後に、これまでの実証研究の限界を受けて登場したアクションリサーチの特徴や定義、類型などについて紹介をしていただきました。さらに、アクションリサーチのデータ収集や分析といった具体的な研究方法について、事例を使って解説していただきました。その後の質疑応答では、倫理審査や研究費の申請のタイミング、論文化する際の視点、研究対象の主体性や研究者との関わり方などについてフロアから発言がありました。
 その後、吉池信男学術委員(青森県立保健大学)から、次年度学術大会に向けた予告を交えての総括が行われた後に、福田吉治学術委員(帝京大学)から、年明け 22日(日)に行われる第 3弾セミナーの周知とともに閉会の挨拶をもって好評のうちに終了いたしました。本セミナーにご協力・ご参加くださいました多くの皆様に御礼を申し上げます。
(学術委員 助友裕子 記)

2.アクションリサーチを論文にするワークショップ

アクションリサーチを論文化するワークショップ事前アンケート(参加申込者限定)
日 時:2020年2月2日(土)10時~15時(9時30分開場)
場 所:女子栄養大学駒込キャンパス小講堂
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202022日(日)女子栄養大学駒込キャンパス小講堂にて、学会主催セミナー「アクションリサーチを論文にするセミナー」が開催され、 37名の参加者が集まりました。本セミナーは、 20191月と 201911月に開催したアクションリサーチに関するセミナーを受けて、アクションリサーチを実施している方や論文化したいと考えている方等を対象にしたものです。
 中村正和学術委員会委員長の開会挨拶、福田吉治学術委員(帝京大学)の趣意説明の後、上地勝学術委員(茨城大学)、江口泰正学術委員(産業医科大学)、吉池信男学術委員(青森県立保健大学)より、それぞれ学校、産業、地域を対象にしたアクションリサーチに関する論文の紹介があった。さらに、助友裕子委員(日本女子体育大学)よりアクションリサーチ論文化の体験談の講義があった。
  グループワーク 会場の様子それらをうけて、「アクションリサーチの論文作成にあたっての困りごとや疑問は?」と「普通の論文とアクションリサーチの論文はどこがどう違うのか?」をテーマに、 6つのグループでディスカッションを行った。グループディスカッションは、学校、地域、職域に分かれ、それぞれの立場から熱心な議論が行われた。各グループからの発表の後、倫理審査、通常の論文との違い、オリジナリティなど、主にグループで共通して出された課題について、参加者と学術委員とで総合討議を行った。
 その後、武見ゆかり理事長(女子栄養大学)と中村委員長より総括と閉会の挨拶があり、最後に、吉池委員から、 7月の学術大会機会での関連行事に関する予告があった。学術委員会として、本セミナーを受けて、アクションリサーチを論文化するためのガイドライン(案)を検討する予定である。本セミナーにご協力・ご参加くださいました多くの皆様に御礼を申し上げます。
(学術委員 福田吉治記)
 

日時:2019年1月27日(日)10時~16時
場所:女子栄養大学駒込キャンパス香川綾記念生涯学習センター

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 2019127日(日)女子栄養大学駒込キャンパス香川綾記念生涯学習センター3階センター講義室にて、学会主催セミナー「アクションリサーチの理論と実際-実践家のためのアドボカシー講座-」が開催され、当初予定していた60名定員を大幅に超える90名の参加者が集まりました。本セミナーは、アクションリサーチの理論や方法を学ぶとともに、具体的なテーマごとに事例検討を通して研究の手法やプロセスについて理解を深め、今後の活動に役立てることをねらいとして行われました。
 午前の部では、中村正和学術委員会委員長の開会挨拶の後に、江口泰正理事・学術委員(産業医科大学)と上地勝学術委員(茨城大学)を総合司会として、齊藤恭平氏(東洋大学教授)より地域の健康づくりにおけるアクションリサーチの可能性についての基調講演が行われ、助友裕子理事・学術委員(日本女子体育大学)よりヘルスプロモーション活動におけるアクションリサーチについての指定発言がありました。その後の質疑応答では、研究倫理申請や研究費獲得に向けた工夫点などについてフロアから発言がありました。
 午後の部では、分科会と全体会が行われました。まず、事例検討を通じてアクションリサーチを味わうことを趣旨として、815名のグループに分かれ、以下のようなテーマでラウンドテーブル型の分科会が行われました。
<分科会テーマ/世話人>
食・栄養/吉池信男理事・学術委員(青森県立保健大学)
学校におけるヘルスリテラシー/上地勝学術委員(茨城大学)
地域・職域におけるヘルスリテラシー/江口泰正理事・学術委員(産業医科大学)
たばこ/中村正和常任理事・学術委員会委員長(地域医療振興協会)
母子保健・性教育/小橋元理事・学術委員(獨協医科大学)
がん教育/助友裕子理事・学術委員(日本女子体育大学)
介護予防/野藤悠氏(地域医療振興協会)
健康格差/村山伸子監事・学術委員会オブザーバー(新潟県立大学)
 その後の全体会は、参加者数の大幅増にともない、当初予定していたワールドカフェ・ジグソー法ではなく、各分科会でまとめられた模造紙を用いて世話人からの口頭報告が中心となりましたが、川田智恵子名誉会員、足立己幸名誉会員からのご発言もあり、活発な意見交換が行われました。全体会の最後に吉池信男理事・学術委員からの総括があり、神馬正峰理事長(東京大学)からの閉会の挨拶をもって好評のうちに終了いたしました。長時間にわたりまして多くの皆様のご協力をいただき、誠にありがとうございました。

日時:2018年1月21日(日)13時~16時30分
場所:順天堂大学10号館カンファレンスルーム

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 2018年1月21日(日)順天堂大学10号館105カンファレンスルームにて,学会主催セミナー「健康経営アドボカシーの実践ワークショップ~大企業の健康経営の経験を中小企業の健康経営にどう活かすか?~」が開催され,83名が参加しました.今回ワークショップでは,健康経営の具体例と成功例を提供し,より多くの参加者の中小企業の健康経営に関する具体的な進め方を学ぶ機会を提供することを目的に行われました.
 前半は,神馬征峰理事長の開会挨拶の後に,春山康夫理事・学術委員会委員長(獨協医科大学)を総合司会として,福田洋理事(順天堂大学)より健康経営の現状と最新動向についての基調講演が行った.その後,江口泰正学術委員会委員(産業医科大学)を司会として,健康経営を導入する3つの企業から以下のような実践報告がありました.
1.産業保健活動の推進を土台とした健康経営」/金森悟氏(伊藤忠テクノソリューションズ㈱保健師)
2.「企業風土に根付いた健康づくり活動の推進/楠本真理氏(三井化学㈱保健師)
3.「中小企業担当者へのインタビューで見えてきたこと」/白田千佳子氏(協会けんぽ千葉支部保健師)
 後半は,事前に配布した質問票に記載された内容による全体ディスカッションを行い,活発な意見交換が行われました.最後には,武見ゆかり理事(女子栄養大学)からの総評の挨拶があり,好評のうちに閉会いたしました.

日時:2017年2月5日(日)10時~16時
場所:女子栄養大学駒込キャンパス小講堂
報告:
 2017年2月5日(日)女子栄養大学駒込キャンパスにて,学会主催ワークショップ「健康課題の解決に向けたアドボカシースキル向上セミナー(第3弾)」が開催され,約70名が参加しました.今回の第3弾では,昨年紹介されたシルトン教授の「効果的なアドボカシー推進のための6つのアクションのワークシート」を用いて,学校保健(食育),歯科保健(特定健診の活用),地域包括ケア,特定健診の受診率向上,産業保健(健康経営),健康情報発信のあり方などの実際的な局面でのアドボカシースキルを身につけることを目的に行われました.
 前半は,中村正和理事(地域医療振興協会)を総合司会として、春山康夫理事・学術委員会委員長(獨協医科大学)からセミナーの経緯と狙いについて解説があり,神馬征峰理事長(東京大学)からアドボカシーについての教育講演,江川賢一学術委員会委員(早稲田大学)からは,シルトン教授のワークシートを使ったグループワークの進め方について説明がありました.その後,8〜10人程度のトピック別のグループに分かれ,2時間程度のワークが行われました.最後には,各グループからの発表と講師の先生方のコメント,武見ゆかり理事(女子栄養大学)からの総評の挨拶があり,好評のうちに閉会いたしました.

日時:2016年2月21日
場所:東京大学医学部総合中央館(医学図書館)3 階 333 号室
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  2016年2月21日(日)東京大学医学部キャンパスにて,学会主催ワークショップ「NCD予防に向けたヘルスプロモーションアプローチのためアドボカシー(政策提言)スキル向上セミナー:エビデンスから影響力へ」を開催いたしました.昨年度実施したセミナー「研究・実践からアドボカシー(政策提言)へ」では,多くの参加者から好評をいただき,アドボカシーに関する理論や具体的な手法を学べる機会がほしいといった声が多く寄せられました.そこで今回は,オーストラリアから,肥満,運動,禁煙,職域,学校などのヘルスプロモーションについて長年の実績と数多くの業績のあるTrevor Shilton 教授をお招きし,アドボカシーの基本的な手法の習得を目指したワークショップを行いました.参加者は68名(内,聴講のみ18名),大学や研究機関,自治体,企業など,さまざまな領域で研究・実践されている方が集まりました.
  まず,Trevor Shilton 教授から,アドボカシーの定義や重要性,効果的なアドボカシーに必要な能力や技術,成功事例などについてご講演いただきました.続いて,アドボカシーを進める上で有効な戦略について,アドボカシーモデルを用いて説明していただいた後,7つのグループに分かれグループワークを行いました.各グループが選択した,身体活動,たばこ,栄養,アルコールのそれぞれの課題について,アドボカシーモデルの6つの手順に添ってワークが進められました.ワーク中は,ファシリテーターを中心に活発な意見が飛び合い,また,Shilton 教授からは,アドボカシーを進める上で鍵となる貴重なコメントをたくさんいただきました.最後には,各グループが短時間のワークの中で纏め上げたそれぞれのアドボカシーを発表し,大盛況のうちにワークショップが終了となりました.
  引き続き本学会では,アドボカシーを推進し,議論を重ね,積極的にとりくみをすすめてまいります.今年度沖縄にて開催される第25回日本健康教育学会学術大会では,アドボカシーをテーマとしたラウンドテーブルを予定しています.皆様のご参加をお待ちしております.

日時:2015年1月25日
場所:女子栄養大学駒込キャンパス
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 2015年1月25日(日)女子栄養大学駒込キャンパスにて,学術委員会企画の学会主催セミナー「研究・実践からのアドボカシー(政策提言)へ」を開催しました.定員100名のところ,115名の参加者が集まり,アドボカシーについて学び,議論しました.
 第1部では,神馬征峰氏(学会理事長・東京大学大学院),中村正和氏(理事・大阪がん循環器病予防センター),村山伸子氏(監事・新潟県立大学),福田洋氏(理事・順天堂大学医学部)から,グローバル,国,自治体,企業といった4つのレベルにおけるアドボカシーについて具体的な事例や経験を交えてご講演をいただきました.
 第2部では,春山康夫氏(理事・学術委員長,獨協医科大学)と赤松利恵氏(理事・広報委員長,お茶の水女子大学)が司会となり,総合討論が行われました.特に,「学会としてどのようなアドボカシーができるか」というテーマでは,4人の講演者とフロアの活発な意見交換が行われました.今回のセミナーを通して,アドボカシーの定義といった基本的なことを学び,さらに学会に求められている役割について参加者のみなさんとともに議論しました.セミナーの詳細については、日本健康教育学会誌に特集号として掲載予定です.

日時:2014年1月26日
場所:女子栄養大学駒込キャンパス
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 2014年1月26日(日)女子栄養大学駒込キャンパスにて,平成25年度の学会主催セミナーを開催しました.参加総数101名の参加者が集まり,質的研究について,学びました.
 セミナー前半では,質的研究をご専門とされる,大阪大学准教授 大谷順子先生をお招きし,ご講演いただきました.量的研究との比較を通して,質的研究の概要をお話くださった後に,データのコーディングの方法や分析ソフトについて,研究の具体的方法についての説明がありました.セミナー後半では,グループディスカッションを通して,講演についてさらに聞きたい事や疑問点について,話し合いました.その後,神馬征峰編集委員長を交えて,グループからの質問を受ける形で,総合討論を行いました.
 本学会誌でも質的研究の論文投稿が増えてきました.質的研究は,量的研究では見落とされがちな現象を捉える研究手法であり,実践現場と密接な関係にある健康教育やヘルスプロモーションの研究においては,意義のある研究手法です.今後さらに,質的研究の学習を深めていけるよう,学会として取り組んでいきたいと考えています.セミナーの内容は,今後,学会誌に掲載する予定です.詳細については,そちらをご参考ください.

日時:2013年6月23日(日)
場所:第22回学術大会(千葉大学) ワークショップ4

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 第22 回日本健康教育学会学術大会の2日目に,編集委員会企画の論文査読セミナーが開催された.
 32名の参加者があつまり,神馬編集委員長と編集委員の参加のもとで,セミナーが開始された.当初,神馬編集委員長より30分ほどのレクチャーの予定であったが,限られた時間でもあり,参加者からの質問に神馬編集委員長はじめ各委員がそれらの質問に対応して回答するという双方向の参加型のセミナーとなった.
 趣旨説明の後,前後周囲の参加者3~4人ずつで,どのようなことが疑問であるかなど話し合ってもらい,話し合いで出た項目について,白板にそれぞれ板書してもらった.
 参加者からは,多くの質問が挙げられた.論文を書く上での心構えから,論文を書くためにどこから手をつけたらよいかや論文構成の比率,論文執筆スキルをどこで学べばよいかなどこれから論文を書こうとする初学者からの質問から,背景や考察,結果のまとめ方についてや対象数の問題など具体的な質問まで,さまざまな質問があげられた.
 今回のセミナーで質問にあげられた項目については,現在ホームページ上に掲載されているQ&Aに追加していく予定であり,今後投稿論文を書く際には,参考にしていただけたら幸いである.論文投稿および審査の過程は書面でのやりとりのため,顔がみえない.今回のセミナーは,学会員と編集委員会のコミュニケーションの良い機会になった.より良い学会誌を目指し,今後も学会員との交流を大切にしたい.多くの投稿を期待している.(文責;中山直子)

日時:2012年1月27日
場所:女子栄養大学駒込キャンパス
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 平成25年1月27日、女子栄養大学駒込キャンパスにおいて,昨年度開催し好評を博した論文査読セミナーの第2弾を開催しました.参加者89名(正会員53名,学生会員11名,非会員25名)で,投稿者と査読者・編集委員のコミュニケーションの向上を図ることを目的としました.
 第1部では査読者・編集委員を代表して,本学会誌編集委員会神馬委員長が論文投稿でよく指摘するポイントを講義しました.
 第2部では,参加者から論文執筆投稿に関する疑問をあげてもらうため,グループワークを実施し,その後,両者のコミュニケーションとして,全体討論を行いました.
①アブストラクト・緒言G  ②方法G ③結果・図表G ④考察G ⑤実践報告G

 

会期:2010年2月6日(土)13時30分~17時30分(その後、懇親会)
会場:女子栄養大学駒込キャンパス小講堂

LinkIcon交流セミナー報告

 

会期:2009年2月12日(土)13:30~17:30
会場:東京大学教育学部赤門総合研究棟 200番教室

1.ねらいと背景
昨年度のセミナーにおいて、これから実施される特定健診、特定保健指導に対する疑問や不安、とまどい、 などに対して、どのように考えるべきか、どのようなことを考えておくべきか、どのように対応するべきかなどを議論した。その議論の中から、以下のような課題が見えてきた。
  • 1)実践者側の環境整備
  •   人材、財政などの実践者側の環境の整備が必要であるということ
  • 2)生活の場での風土づくり
  •   良い生活習慣のために、地域や職域などの生活を取り巻く場に、健康な生活  習慣を支援できるような風土をどのように作っていくかということ
  • 3)実践者側の健康に対する価値観と指導方法の変容
  •   多様な価値観を持つ対象者に対して、柔軟に対応しながら健康教育を進めていけるように、専門家の持つ価値観も柔軟性を持つ必要があるのではないかということ
  • 4)成果の表現方法を含めた評価方法
  •   生活習慣の改善が、即糖尿病の減少や医療費の改善に結びつかない状況で、何をもって成果というのかということも含めて、評価方法の開発ということ
  • 5)アウトソーシングする側、される側の質の確保
  • 6)地域格差、企業間格差
  •   専門家や施設なのに恵まれた地域、職域とそのような資源の乏しい地域、職域の格差にどう取り組むべきかということ
  • 7)個々の事業をマクロの視点で捉えることの必要性
  •   ひとつひとつの事業をどうするかではなく全体としての目的、何のためにやっているのか、本当の対象者は誰なんだというような、全体を捉えるということ
  • 8)今回の基準に入らないハイリスクグループへの対応
  •   太っていなくても、 高血圧を持っている人や喫煙者への対策など、しなければならないことがおろそかにならないようにどのように取り組むかということ

  今回は、以上の課題のうち、成果をどのように考え、どのように表現するのかということに焦点を当てた。
  ここで、ヘルスプロモーションの考え方を持ち出すまでもなく、人の生活習慣が変わってそれが継続するためには、本人の知識や意識も必要であるが、周囲の人たちの意識や価値観なども含めて、その人を取り巻く環境の整備が重要である。昨年出てきた言葉を借りれば、風土づくりであり、文化づくりということもいえるだろう。そのような環境整備、風土づくり、文化づくりのためには、対個人、対地域、対職域それぞれの戦略が必要であり、それらを包括する、
  もしくは支援する位置づけとしての国家戦略が必要である。本来的には、そのような視点からの評価方法や成果の表し方が重要と考えられる。
  今回のセミナーの参加者は地域や職域で特定検診や特定保健指導を企画したり実施する立場の人が多い。そのため、議論の焦点は対個人、対地域、対職域での進め方の工夫や成果の表し方ということになる。いずれの立場であっても、特定健診や特定保健指導がよい生活習慣の持続や糖尿病などの減少に結びつくためには、幅広い視野からの戦略づくりを考えることの重要性を忘れるべきではない。

 

会期:2008年1月12日(土)13:00~17:00
会場:女子栄養大学駒込キャンパス

1.ねらいと背景
  地域や職域などの現場では、特定健診、特定保健指導にどう取り組むかということでかなりゆれている。健診や指導の委託先に悩んだり、どういうふうにするのかがいまだに話題になっている状況もある。これまでも、個別的な指導や集団的な教室活動を展開したり、自主活動の支援など、様々な活動を取り組んできたが、それらとどう違うのか、あるいは違えるべきなのかという悩みを持っている人たちもいる。さらに、国が示したことをどう忠実に実施しようかというところにだけが話題になっているところもあるようである。そういう意味で、「特定健診、特定保健指導にどう取り組むか」という表題を掲げたときに、その話題性は幅が広く、とても焦点が絞りにくくなることが予想された。

  そこで、今回のセミナーでは、様々な立場の現場の人に、いまの状況や課題と思っていることを出してもらい、それに対してコメンテータからの意見やフロアでのディスカッションをとおして、むしろ「何を考えるべきか」ということを抽出するところにねらいをおいた。
ここで、「何を考えるべきか」ということは、単に「特定健診、特定保健指導をどうするべきかを考える」ということではなく、その上位の目的である「多くの住民の生活習慣を改善するためには何を考えるべきか」ということがあって、その中に今回の特定健診や特定保健指導はどう位置づけられるか、あるいはどのような切り口にするのか、そしてどのように実施するのかという順序で考えることが重要だと思われる。

  特定健診や特定保健指導を頑張っても、それで生活習慣が改善し、糖尿病や高血圧などが減少しなければ、意味はない。糖尿病対策プロジェクトと考えた場合、生活習慣の改善は大きな要因とはなるだろうが、それだけでは十分な糖尿病対策とは言えないであろう。例えば、血糖コントロールや血管管理の方法やその専門家の養成、あるいはその専門家へのアクセスなど、様々な条件整備が必要である。また、生活習慣対策として考えた場合、例えば継続できる運動習慣を例に考えれば、本人の知識や意識というものはあっても、家族や近隣の態度や行動、運動できる場の確保、適当な運動を指導してくれる人材など、この場合も様々な条件整備が必要である。このような様々な条件整備の一つとして、本人の意識や知識に働きかける場として保健指導を位置づけたり、あるいは自分の身体状況をチェックする場として健診を位置づけるなど、対策全体の枠のなかに位置づけた戦略を立てていかなければ、健診と保健指導だけで糖尿病の減少や医療費の削減を期待することは困難であろう。

  もう一つ考えるべきことは、「指導」といっても、相手は様々な人生経験を持ち、その過程で自分なりの考え方や生き方、価値観などを作り上げてきている人たちである。また、悪い生活習慣の危険性や改善方法について、様々な場や媒体を通して情報を得ている人たちでもある。さらに、自分の普段の暮らしのなかで、生活習慣が変わらないことに「時間がない」「場所がない」「検診など受けたことのない人が元気で長生きしているではないか」など、様々な言い訳も持っている人たちでもある。そのような人たちが、「大人のつきあいとして」ではなく、本気でつきあってくれる教室の持ち方、本気で考えてくれる支援の仕方も考える必要がある。このような生活習慣改善に、様々な分野の協働によって立ち向かっていくというのがヘルスプロモーションの考え方でもある。

  まだまだ考えるべきことはあるのだろうが、そのような背景のなかで、今回のセミナーが、現場での活動を進めるなかでの戦略、戦術を見出す出発点として位置づけた。

2.進め方
  以上のようなねらいと背景を持って、まず、現場からの話題提供ということで3人の方に問題点、課題などを提示してもらった。それを受けてフロアで、近くに座っている人と意見を交換してもらい、その結果をいくつか発表してもらった。その後、話題提供やフロアからの意見も踏まえて、3人のコメンテータからコメントをもらった。

  そこまでを前半として休憩に入り、休憩後は、まず、学会として準備してきた世話人からのコメントや問題提起をした。その後、さらにフロアでの意見交換と発表、そして話題提供者、コメンテータからの最終発言を経て最後にまとめをした。

3.総括的なまとめ
  今回は初めての試みであり、フロアでの意見交換にも時間を割いたため、話題提供者やコメンテータには言い足りなかった部分が相当残ったものと推察される。
しかし、発言いただいた方たちは、セミナーの目的や役割をきっちりつかんだ発言をいただいき、フロアの参加者も積極的に発言して活発に意見交換ができ、いい雰囲気のうちに終わることができた。

  大枠として抽出された課題を以下に示すが、もちろんこれは筆者の主観的な抽出であり、話題提供者やコメンテータの原稿のなかからさらなる課題を抽出していただければ幸いである。
  • 1)人材、財政などの実践者側の環境整備
  • 2)良い生活習慣のための風土づくり
  • 地域や職域全体で、健康な生活習慣を支援できるような風土をどのように作っていくかということ
  • 3)実践者側の健康に対する価値観と指導方法の変容
  • 多様な価値観を持つ対象者に対して、柔軟に対応しながら健康教育を進めていけるように、専門家の持つ価値観も柔軟性を持つ必要があるのではないかということ
  • 4)成果の表現方法を含めた評価方法
  • 生活習慣の改善が、即糖尿病の減少や医療費の改善に結びつかない状況で、何をもって成果というのかということも含めて、評価方法の開発ということ
  • 5)アウトソーシングする側、される側の質の確保
  • 6)地域格差、企業間格差
  • 専門家や施設なのに恵まれた地域、職域とそのような資源の乏しい地域、職域の格差にどう取り組むべきかということ
  • 7)個々の事業をマクロの視点で捉えることの必要性
  • ひとつひとつの事業をどうするかではなく全体目的、なんのためにやっているのか、本当の対象者は誰なんだというような、全体を捉えるということ
  • 8)今回のメタボの基準に入らないハイリスクグループへの対応
  • 太っていなくても、高血圧を持っている人や喫煙者への対策など、しなければならないことがおろそかにならないようにどのように取り組むかということ
これらの課題に対して、学会としての取り組み方も検討課題であろう。
参加頂いた皆様、話題提供者、コメンテータの皆様、準備委員の皆様、いろいろとお手伝いいただいた皆様に、深甚感謝
準備委員会委員長 座長
(社)地域医療振興協会ヘルスプロモーション研究センター
岩永 俊博