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Japanese Society of Health Education and Promotion

報告:参加型交流セミナー(第2弾)

みんなで考えよう!話し合おう!共有しよう!

“成果”をどう“評価”するか?

LinkIcon報告:第1弾(2008.1.12)「どう取り組むか!」
LinkIcon報告:第3弾(2010..2.6)「困難事例から考える」

2009年2月12日(土)13:30~17:30
東京大学教育部赤門総合研究棟200番教室

2008年度セミナーのねらいと総括

(社)地域医療振興協会ヘルスプロモーション研究センター
岩永 俊博

1.ねらいと背景
昨年度のセミナーにおいて、これから実施される特定健診、特定保健指導に対する疑問や不安、とまどい、 などに対して、どのように考えるべきか、どのようなことを考えておくべきか、どのように対応するべきかなどを議論した。その議論の中から、以下のような課題が見えてきた。

  • 1)実践者側の環境整備
  •   人材、財政などの実践者側の環境の整備が必要であるということ
  • 2)生活の場での風土づくり
  •   良い生活習慣のために、地域や職域などの生活を取り巻く場に、健康な生活  習慣を支援できるような風土をどのように作っていくかということ
  • 3)実践者側の健康に対する価値観と指導方法の変容
  •   多様な価値観を持つ対象者に対して、柔軟に対応しながら健康教育を進めていけるように、専門家の持つ価値観も柔軟性を持つ必要があるのではないかということ
  • 4)成果の表現方法を含めた評価方法
  •   生活習慣の改善が、即糖尿病の減少や医療費の改善に結びつかない状況で、何をもって成果というのかということも含めて、評価方法の開発ということ
  • 5)アウトソーシングする側、される側の質の確保
  • 6)地域格差、企業間格差
  •   専門家や施設なのに恵まれた地域、職域とそのような資源の乏しい地域、職域の格差にどう取り組むべきかということ
  • 7)個々の事業をマクロの視点で捉えることの必要性
  •   ひとつひとつの事業をどうするかではなく全体としての目的、何のためにやっているのか、本当の対象者は誰なんだというような、全体を捉えるということ
  • 8)今回の基準に入らないハイリスクグループへの対応
  •   太っていなくても、 高血圧を持っている人や喫煙者への対策など、しなければならないことがおろそかにならないようにどのように取り組むかということ


  今回は、以上の課題のうち、成果をどのように考え、どのように表現するのかということに焦点を当てた。
  ここで、ヘルスプロモーションの考え方を持ち出すまでもなく、人の生活習慣が変わってそれが継続するためには、本人の知識や意識も必要であるが、周囲の人たちの意識や価値観なども含めて、その人を取り巻く環境の整備が重要である。昨年出てきた言葉を借りれば、風土づくりであり、文化づくりということもいえるだろう。そのような環境整備、風土づくり、文化づくりのためには、対個人、対地域、対職域それぞれの戦略が必要であり、それらを包括する、
  もしくは支援する位置づけとしての国家戦略が必要である。本来的には、そのような視点からの評価方法や成果の表し方が重要と考えられる。
  今回のセミナーの参加者は地域や職域で特定検診や特定保健指導を企画したり実施する立場の人が多い。そのため、議論の焦点は対個人、対地域、対職域での進め方の工夫や成果の表し方ということになる。いずれの立場であっても、特定健診や特定保健指導がよい生活習慣の持続や糖尿病などの減少に結びつくためには、幅広い視野からの戦略づくりを考えることの重要性を忘れるべきではない。

2.進め方
  以上のようなねらいと背景を持って、まず、現場からの話題提供ということで3人の方に、それぞれの進めている工夫や問題点、進めていく上での疑問などを提示してもらった。それを受けてフロアで、近くに座っている人と意見を交換してもらい、その結果をいくつか発表してもらった。その後、話題提供やフロアからの意見も踏まえて、ゲストコメンテーターから制度作成の際の考え方をコメントしてもらった。
  そこまでを前半として休憩に入り、休憩後は、まず、学会として準備してきた世話人からの話題提供やコメント、あるいは問題提起をした。その後、さらにフロアでの意見交換と発表、そして話題提供者、コメンテータからの最終発言を経て最後にまとめをした。

3.総括的なまとめ
  今回は、昨年の議論を引き継ぐ形で、昨年出された課題に焦点を当てて議論を深めることを考えていた。
  現場からの問題提起では、評価方法や健康教育の方法に工夫を凝らしている紹介もあった。しかし、セミナー全体を通してのフロアーからの発言などを総括的に見ると、現場では非常に戸惑っている状況がうかがわれた。新しい制度になって、その運営や手続きの大変さへの戸惑い、被保険者にわかりにくい制度になって、そこをどう伝えたらいいのかという戸惑い、太っていなくてもさまざまな健康課題を持っている人もいるのにどうするのかという戸惑いなどが渦巻いている。しかも、それが、いつまでにどう解決できるのかというのが見えていれば、もう少し安心して、あそこまで我慢すればいいのだということになる。しかし、どうなるの、どう落ち着くの、いつごろどうなるの、もしかしたら来年くらいにまた違う形になるのではないかなど、たくさんの不安や戸惑いの中で仕事は進めなければならない。
  そういう状況だからこそ、一方では「そもそも論」を押さえながら一方で「現実にどのように対応するのか」という両輪の議論が必要になるだろう。
  対象者の生活習慣改善戦略として考えた場合、本人の意識や知識とともにそのほかにもさまざまな条件の整備が必要であり、その全体枠で考えた場合、特定健診、特定保健指導というのは一つの手段として位置づけられる。しかし現実には、そこが細かく制度的な形で提示され、現場はそれに追いまくられ感があり、それに振り回されているというような感じを受けているのかもしれない。
  とくに企画を担当する人が、一つひとつの事業にとらわれるのではなく、全体の目的の中に、各事業がどのように位置づけられるかという視点を持つ、それが政策といえるだろう。
  現実にいろんな戸惑いがあるので、それに追いまくられるという状況はある時期、ある段階では仕方のないことかもしれない。しかしそこで、少なくともひとつの職場に誰か、全体枠を見渡しながら、落ち着いて仕事をする人がいないと、全体が浮足立ってしまうような気がする。
  では、具体的にどうしたらいいのか、というのが学会としての取り組みの課題である。会場で意見を言いたりなかった人もあるかもしれない。また、このまとめを読んでの感想やご意見など、本誌やホームページ上からでもおおいに寄せていただき、そのことでさらに議論が深まることを期待したい。
  参加頂いた皆様、話題提供者、コメンテータの皆様、準備委員の皆様、いろいろとお手伝いいただいた皆様に、深甚感謝。

現場からの話題提供
健康保険組合の取り組みについて

ダイエー健康保険組合
保健師 岡久 ジュン

1.はじめに
当健康保険組合では15名の保健師が事業所を巡回して特定保健指導を実施している。2008年度は約3,000名の対象者のうち40代男性を中心に支援を行うこととし、実験的に約860名に初回面談を実施、そのうち支援終了者は約400名であった。ここでは特定保健指導の評価について、現場レベルで実施してきたことや感じたことを述べる。

2.評価計画
厚生労働省の標準プログラムに沿って独自に評価方法を検討した。その際、①対象者個人の評価(行動変容したか、セルフケアができるようになったか、健診データは改善したか等)、②集団の評価(対象集団の健康状態は改善したか等)、③事業評価(企画・アセスメント、実施、評価は適切であったか等)について、評価時期や評価手段、評価指標が明確になるよう検討を重ねた。例えば、対象者個人の行動変容については、初回面談から6か月後の評価の時に評価表を用いて行動目標の達成状況を確認することとした。集団の評価では「店従業員/事務所スタッフ」「改善意欲のある人/ない人」等、集団の特性によって達成状況に違いがあるかを確認することとした。また、この評価計画を保健師全員で共有できるようマニュアルに記載している。

3.評価の実際
2008年9月の保健師会議では保健師ごとの実施状況を提示し、対象者の反応や体重記録表・リーフレットの活用法について意見集約を行った。10月の集約担当者ミーティング(以下、集約担当者MT)では中間実施率をもとに次年度以降の目標実施率、対象者の選定方法と実施率の適合、通信支援の実施方法、禁煙支援の方法などが検討された。2009年1月には保健師同士で成功事例や失敗事例、工夫点などの共有を行った。2月の集約担当者MTでは対象者に記入してもらった評価表やアンケートの集計結果をもとに事業評価を実施した。この他にも随時、集約担当者同士で意見交換したり、各保健師から担当者に意見をあげている。今後は対象者からの評価表とアンケートに健康診断のデータを加えて詳細な評価を行う予定である。具体的には2010年度以降の対象の選定基準やプログラムの流れ・内容などについて見直していく。

4.1年間実施してみて感じたこと
特定保健指導の経験は、組織内の業務全体を見直すきっかけになったと思われる。例えば、業務の中で何にパワーをかけるか、時間短縮できる作業はないか等、改善の余地はまだある。また、個人的には今まで見過ごしていた保健指導技術の課題が明らかになった。特に、対象者自身が目標を決め生活習慣の工夫点に気づけるような面談の進め方や、対象者を信じその力を引き出す技術は特定保健指導に限らず必要であり、実践でこそ習得できるものであろう。今後は、対象者・保健師双方が充実した面談となるようスキルアップをはかっていきたいと。評価は否定的なイメージがあるが、評価をすることで自分の保健指導スキル、保健指導事業、保健
師活動全体を発展させていくことができる。評価はそのための前向きな作業と捉えるべきである。

5.交流セミナーに参加して
三芳町保健センターの池田氏の発表の中で紹介された、対象者から届いた葉書が印象的であった。紙面いっぱいに取り組み状況や感想が書かれてあり、その対象者が前向きに取り組んでいる様子がうかがう。自分自身の活動の中でも、対象者から「体重減ったよ!」と声をかけてもらったり、記録表から体重が減っていく過程を見ると嬉しく思う。また、その喜びを他の保健師と共有し、時に自分自身が称賛されると「またがんばろう!」と思える。対象者と喜びを分かち合うことや専門職同士で成功事例を共有することは評価として形に残るものではない。しかし、特定保健指導を実施する者のモチベーションの維持に大きく影響しうる。今回の参加型交流セミナーで他企業・他職種の取り組みを知り、やりがいや充実感を共有できたことは貴重な機会であった。今後もこの視点を忘れることなく対象者を支援していきたい。

現場からの話題提供2

地域での一年を振り返って

埼玉県三芳町保健センター 管理栄養士
池田 康幸

今回のテーマである“成果”と“評価”を考えるとき、出来る限り様々な角度から見られるように気をつけている。それは立場や役割により捉え方が変わってくると思うからである。例えば私が勤務する保健センター内は最低でも「個々の専門職」「保健指導実践チーム」「特定保健指導実施課(保健センター)」の3つの視点から成果と評価が存在する。さらには国民健康保険主管課、地方自治体と進み、健康づくり全体を捉えたポピュレーションアプローチまで考えなくてはいけない。ここでは特定保健指導実施課(保健センター)の枠内で振り返ったことを述べたい。

〔個々の専門職〕
保健指導を行うのは6人の嘱託管理栄養士である。“行動変容”がキーワードである以上、結果的に住民が行動変容するサポートをできたのかが評価になるのは当然のことである。しかし、上位にある目標から考えた場合、末端の分かりやすい共通指標をたてない限りブレが生じ成果や評価をはかるのは難しいと思った。そのためにスタッフの共通認識できる指標をたてるのに何度も検討を重ねた。その指標を柱に若干の変更を重ねながら保健指導を進行させている。

〔保健指導チーム〕
企画立案。すなわち事業のPlanをたてる段階からチームとして検討を重ねている。それは保健指導の通知から始まり指導場面で使うひとつひとつの媒体までを、「相手を変える」から「相手が変わる」ためにどういう情報が必要で、どういう伝え方をすればいいのかを検討した。その結果大きな目標、大きな行動変容は必要ないという考え方が生まれ、生活習慣を変えたと思わないくらい小さな目標を毎日積み重ねられるような支援を行える工夫をした。

〔保健センター(特定保健指導実施課)〕
実施課になれば実施計画の数値目標に対しての評価が求められる。この数値目標をクリアするには申込者を増やさなくてはいけない。当町は健診から保健指導まで2ヵ月以上のタイムラグが生じ、その後に保健指導通知の郵送を行う。
保健指導通知を対象者が見ることから“保健指導”は始まっている。封をすぐに開けてくれるのか、面倒な申し込み方法になっていないのかなどを検証するためには、どのような工夫をしたらどうなったかという小さなPlan(計画) Do(実施)Check(評価)Act(改善)サイクル(PDCAサイクル)を常に回転させることが重要だった。
昨年この場の話題提供では「成果」を捉える上で「事例の蓄積も行わなければならない」ということを述べた。ここでいう事例とは相談場面に特化した考えであった。しかしそれだけで「成果」を捉えることが出来るのかいささか疑問が残っていた。
実際に特定健診・保健指導の業務を行って確認できたことは、小さなPDCAサイクルを回すことが重要で、それによりそれぞれの立場において成果が見えるようになるということだった。
とにかくいろいろなことをみんなで考えて現場から発信しましょう!現場のことは現場で働く者が一番よく知っているのだから。

現場からの話題提供3

県の立場から見た取り組みについて

大分県福祉保健部健康対策課
藤内 修二

大分県における実態
 大分県における国保加入者の特定健診の受診率は平成20年11月末の時点で26.7%である。今後,予定されている未受診者健診等で,もう少しの積み上げが期待されることから,20年度の目標である36%には達しないものの30%は超えることが見込まれている。市町村別の受診率では,最低の大分市16.6%から最高の姫島村67.1%まで4倍以上の格差がある。
 健康保険組合や健康保険協会(旧政府管掌健康保険)の受診率についてはまだ,情報が得られていないが,健康保険協会の受診率はかなり低いのではないかと予想されている。
 特定保健指導の対象者は,受診者61,252人に対して,10,490人で(受診者の17.1%),見込みの3/4程度にとどまっている(いずれも国保加入者の数値)。これらの特定保健指導対象者に対する指導は,国保連合会からの健診データの提供が遅れ,対象者の階層化までに3ヶ月を要したこともあり,20年11月末の時点で,初回面接の実施率は28.0%となっている。

竹田市の取り組み
 人口26,274人の竹田市では,40~74歳の国保加入者が6,605人で,20年度の特定健診受診率の目標を55%に設定していたが,平成21年1月末の時点で51.7%である。特定保健指導は実施率35%を目標にしていたが,特定保健指導の対象者が積極的支援167人,動機付け支援405人と見込みより少なかったこともあり,現時点で,実施率は66.1%になっている。こうした高率の特定保健指導の実施率につながっている要因として,以下の点が挙げられる。

  • ①例年通り,健診1か月後から保健指導が始められるようにした
  •   国保連合会からのデータを待たずに,階層化のためのデータ処理を自分達で行った
  • ②健診結果の郵送をせずに,初回面接や継続の面接を地域の公民館等に出向いて実施
  •   公民館に出向くのは延べ100回近くに及ぶ
  • ③初回面接の日程は個別にハガキでお知らせして,電話で日程調整をしている
  •   当日は携帯電話で連絡をとって,確実な面接につなげている
  • ④面接に来られなかった人については,保健師が夜間に家庭訪問等を実施している
  •   臨時職員には時間外の訪問をさせられないので,正規職員がやっている
  • 男性の一人暮らしの場合や認知症のある対象者の場合には,2人で訪問
  • ⑤愛育班をはじめとする住民組織が各地区で活動をしており,住民の健康への関心が高い
  • 保健指導終了後は,地域の健康づくり活動につなげる工夫をしている

平成17年度に4市町村が合併したこともあり,人口の割に保健師が12人と多く,保健師削減が取り沙汰されている。こうした中,保健師が多いことで,これだけの活動ができることをアピールする機会として,母子保健や介護保険の担当保健師も動員して,「総がかり」で頑張っているが,いつまで続くか不安を感じている。また,特定保健指導に力を入れたため,地域の健康相談など地域に出向く機会が減っていることにも心を痛めている。それでも,市町村合併後,母子保健推進員の全市への拡大,愛育班の分班数の増加など,住民組織の育成と支援に力を入れていることは大きく評価できる。

特定健診・保健指導の課題
 1年が経過した,特定健診・保健指導の課題として,以下のような点が挙げられる。

  • ①特定健診受診率の目標達成が困難である。市町村においては,目標の達成ど ころか,平成19年度の基本健診受診者数との比較でも2割程度減っているという自治体も多い。全国健康保険協会の受診率の改善も厳しい状況である。がん検診の受診率も一緒に低下し,がん対策推進計画の受診率50%の目標が更に遠のいている状況である。
  • ②特定健診のデータ化に3ヶ月かかり,タイムリーな保健指導ができていない。このため,保健指導対象者の関心が薄れ,メタボリックシンドロームに着目して階層化した意義が,ほとんど発揮されていない。竹田市のように地域の公民館や自宅まで出向いての保健指導がどの自治体や保険者にもできるとは思えない
  • ③これまで市町村による保健指導の対象だった被用者保険の扶養家族から,保健指導が受けられなくなったと不満の声も聞かれている。地域における健康づくりが,加入する医療保険の違いで,分断されてしまっている現状がある。
  • ④医療機関での特定保健指導の体制を整備することは,特定保健指導だけでなく,生活習慣病で通院中の患者への療養指導にも活かせるが,医療機関として,特定保健指導にどれくらい投資すべきか戸惑いの声が聞かれ,その整備が進まない状況である。
  • ⑤医療機関と行政と連携した生活習慣病対策へと展開できるためには,保健所の役割が重要であるが,特定健診・保健指導の推進に取り組む保健所がまだまだ少ない。

ゲストコメンテータより
特定健診・特定保健指導の成果と評価について

大津市健康保険部健康推進課
西本 美和

特定健診・特定保健指導の成果と評価について考える時には、いろいろな切り口や立場、視点から考えていくことが大切ではないか。以下にいくつかの切り口を示す。

  • 1. 事業としての成果や評価
  • 2. 医療保険者としての成果や評価
  • 3. 都道府県としての評価
  • 4. 市町村としての評価
  • 5. 自治体に働く専門職としての評価


1.事業としての成果や評価を考える
  「保健指導事業」としての成果や評価を考える時には、その事業の目的や期待される成果、評価のための指標等をあらかじめ決めておくことが重要である。そのため作成は義務ではないが、「保健指導計画」といったものがあると、従事者にも実施者にもわかりやすい。特定保健指導については、国から示されているのは最低要件のみなので、それぞれの事業実施者が、どこをゴールラインとするのか、どこまでの介入でどれだけの効果を期待するのか、コストパフォーマンスがどうか、といったことは、どこも手探りで模索中という状況かと思う。

2.医療保険者としての成果や評価
医療保険者として、まず求められている成果は、参酌標準に係る目標の実現(健診受診率・保健指導実施率・メタボ減少率)であり、加算減算の評価指標となるこの3つの数値目標に向けた成果が求められる。しかしながら、この3指標だけに振り回されると、メタボリックシンドローム該当者だけしか見えず、本来の目的から逸脱していく可能性が危惧される。保険者に期待される役割としては、特定健診・保健指導の実施だけでなく、加入者全体を対象とした保健事業の実施をすることで、有所見者・有病者の減少、治療中断者の減少、未治療者の減少、またこれらの取り組みの先には、医療費の適正化や医療保険費用の軽減といったことにもつながっていくことが期待される。そのためには、医療費や疾病傾向の分析と対策、効果のある事業の実施 (アウトカム・コスト等)が必要だし、そのための情報収集の場として、保険者協議会の活用は欠かせない。

3.都道府県としての評価
  都道府県は医療保険者ではないため、今回の特定健診・保健指導からは少し距離があるとか、どこからどのように関わっていけばよいのかが見えないとかいった声を聞く。しかしながら、都道府県の立場から、この特定健診・保健指導の評価を考えると、次のようなことが見えてくる。
  都道府県には、医療費適正化計画の策定と推進が求められており、その中には特定健診・保健指導に関する数値目標も上げられる。また健康診査管理指導等事業実施ための指針」(平成20年3月31日健総発第0331012号通知)に基づく「生活習慣病検診等管理指導協議会」の設置や地域・職域連携推進協議会の運営。保険者協議会への参画といったこともある。さらには、「健康増進計画」と健康栄養マップ調査結果の活用。食育基本計画の推進。これらは生活習慣病対策を進めていくために多面的に関わることのできる都道府県の強みである。保険者の立場ではない、都道府県の立場であるからこそ、広域的視点と地域という視点から、広く生活習慣病対策が推進できるための、ひとつの側面としての特定健診・保健指導について評価していくことが可能である。

4.市町村としての評価
  これまで、住民全体を対象として健診事業を行ってきた市町村が、今回の制度改正で国保加入者以外の住民が見えなくなってきたという話を聞くことがある。しかしながら、市町村としては、住民全体への健康づくりの支援という役割は変わっていないことから、広い視野で特定健診・保健指導を捉えることが必要とされる。特定健診・保健指導については、保険者協議会との連携しつつ、住民が特定健診・特定保健指導を受けられるための体制整備が求められているし、必要なところでは市町村が特定健診・保健指導実施機関として登録し、市民にサービス提供するところもある。特定健診・保健指導だけでなく、市町村健康増進計画や食育基本計画に基づいた、ポピュレーションアプローチや地域づくり、世代を超えた健康づくりの支援という取り組みを、制度改正に引きずられることなく、さらに推進していくことが大切だと思う。

5.自治体に働く専門職としての評価
  特定保健指導は、サービスのひとつ。例えば特定保健指導という入り口から住民をみたときに見えてくるものは何なのか?そもそもどういう住民の姿を実現したいのかといったイメージを持ちながら事業に取り組みたいものである。そのためには、公助:行政しか出来ないこと。やるべきこと。共助:地域づくり。仲間づくり。組織づくり。自助:能力の付与⇒セルフマネジメント。この3つのバランスや方向性の軸をよく見極め、さらに地域の特性を踏まえた戦略を立てて、様々な活動を行っていくことが、自治体に働く専門職としての役割であり評価につながるものではないかと考える。
  今回、特定健診・保健指導の成果と評価について考えたが、それぞれの立場の成果や評価を総合的に分析し、次の対策や施策につなげていくことが大切である。特に自治体に働く専門職にその役割を期待したい。

コーディネーターより
問題提起:誰のための評価か?

東京大学大学院医学系研究科・国際地域保健学教室
神馬 征峰

  特定健診・特定保健指導、メタボ対策というのは国の政策の一貫としてすでになされている。その政策の枠の中で生じている諸問題がこれまでのいくつかの発表の中で成功例として紹介されてきた。まだ準備が十分整っていないなかで、優れた活動がなされていると思う。しかしその成功例をスケールアップする時には、エビデンスの活用が大事である。どういう状況で、どういう年代、かつどういう性別だったら、その方法が有効であるのかということをわきまえた上で、成功例を広げていく必要がある。日本にはないかもしれないけれども、ほかの国にいけば見つかるエビデンスがある。それがベスト・プラクティスと呼べるものであれば、使ってもよい。自分の事業を広げる際にはそのような配慮が必要になってくる。 しかし、これらは、いずれにしても国の政策の枠内でなされた活動のよしあしを論じたものである。
  ただし、藤内氏の発表のなかでは、この国の政策による活動の枠を超えうる評価の視点が示されていた。制度に含まれる個々の問題点というよりは制度そのもの、あるいは枠組みの評価がなされていた。新しい活動が始まったけれども、「何かおかしいんじゃないか」という声はあってもよい。厚生労働省が指示したからと言って、それに盲従的に従う必要はないと思う。このような制度そのものに対する評価は、政策をより洗練させていくためにも重要である。
  「何かおかしいんじゃないか」という点について、グループ・ワークの中でおもしろいコメントがあった。扶養者、配偶者の健診がどうもうまくいかないと。制度が変わり、対応が極めて遅れたためである。これらの問題点は、一時的に耐えれば解決し、それですむことなのかもしれない。あるいは対応がうまくいききらず、変えなければならないものなのかもしれない。その判断をするための評価というのがあり得る。ところがそのような評価はあまりされていない。極論になるけれども、たとえば、配偶者の健診が遅れたためにがんの発見が遅れ、全日本の配偶者の健診対象者の50%が死んでしまったとなれば、厚労省はあわてて制度や事業実施の方法を変えるであろう。しかしそういう類のデータはすぐには出ていない。では、どういうデータが出たら、制度変革に向けての活動ができるのか。
  いろんな苦情はどの事業にもつきものである。こうした「ひとつひとつの声」を力に変えるネットワーク、制度を変える力にしていく仕組みが日本の中ではあまりできていない。署名を集めるとか反対運動をするとか、あるいは研究者が全国から苦情を集めて、自治体、世の中こんなに混乱しているというデータを使って論文を書いてみるとか、できることはたくさんある。学会はそのための候補機関ではあるが、誰かがそれをやるべきである。今ある制度の評価をして、悪いものは変えていくアクションが必要である。
これまでは、メタボ対策という活動の枠内あるいは、その枠組みに対する評価という視点で評価についてみてきた。そかしそれだけでは不十分である。
  実はメタボを取り巻く外の世界というのがある。これに関してどうしようかという声が今回まだひとつもでてきていない。たとえば、ファーストフード・レストランに対してどうするか。ロサンゼルスでは、新規のファーストフード・レストランの設置を許さないという法律を2008年に作った。
  一方、日本では市町村レベルで、県レベルで、あるいは国レベルで、このようなファーストフード・レストランなど、幅広い意味でのメタボを取り巻く環境対策を考える、あるいはそれを実践していくような働きが必要である。それがないことには、いくらこのメタボ対策という枠の中でがんばったとしても限界がある。100%のうちの保健センターなどに来てくれた20%がどうのこうのという議論で終わってしまう。来ない80%の人たちをどうにかするためには、この枠の外の活動を何とかしなければいけない。この点をもっと真剣に考える必要がある。
  「人々が自らの健康を自ら改善し、かつコントロールできるようにすること」というWHOによるヘルスプロモーションの定義がある。この定義の前半部分を見ると、「自分の健康は自分で守りなさい、自分の責任ですよ」と言っているようにも読み取ることができる。しかしながら、この定義が言っているのは、「自分の健康を自分が改善し、コントロールできるようにすること」、もう少し説明を加えれば、「そういう環境をつくりあげていくこと」が重要だということである。そういう環境の中にいれば、人が自らの健康を改善しコントロールできる、そういう環境づくりをしていくのが保健事業従事者の役割、自治体の役割、あるいは政府の役割ではないか。
  これは、健康教育だけでは行動変容はおこらない、おこりにくいという反省に立った考え方からくるものである。健康教育というのは、ひとりひとりへの個別アプローチ、集団への個別アプローチ、これが一人であれ集団であれ、直接何かしようとする。
  でも、それではうまくいきにくいというのが、ヘルスプロモーションである。環境と教育の組み合わせというのが、プリシードプロシードモデル。例えばたばこ対策として有効なのは、税金を上げるとか、分煙体制にするとか、広告をやめるとかいうことである。ここで注目したいのは、このどれひとつとっても、喫煙問題を抱えている個人に対して、直接的は何にもしていない。当事者を飛び越えたところで政策を作ったり、法律をつくったりしている。そしてそれが個別対応に勝っている。これがヘルスプロモーションの強みである。
そういうことがメタボ対策のなかでどれだけやられているか。たとえば今日の最後の発表のスライドに「不健康な生活習慣を送っている人」についての解説があった。この人たちが自分の健康を自分で改善し自分でコントロールできるようになるための支援、環境づくりとは、一体何か。「生活習慣病予備群」、あるいは「生活習慣病の有病者」、彼らのための支援、環境づくりとは何なのか。情報提供とか保健指導とかが既存のアプローチ。しかし、それだけで行動変容できるのか?ここはしっかり評価したほうがよい。今あるメタボ体策というこの枠の中で、情報提供とか保健指導とかがなされている。しかし、その枠の外で活動しているもっと強力な団体、企業とかが、よりアトラクティブで皆がお金を出したくなるような情報を提供し、当事者を誘惑している。それに対してどうしたらよいのか。その対策をしないで、枠の中だけであがいていて、現状は変わるだろうか?この点を何とか改善しないことには、メタボ対策は一定の枠の中での成功としてしか終わらない。
評価するときには、行動変容した人の数とか集団の数とか、それだけではなくて、環境、法律、制度、そういうものが、いろんなレベルでどう変わったか、それを見ていく必要がある。
  最後に評価に関しては、目的やステークホルダーによってその中身が変わってくる。われわれは公衆衛生の専門家として、誰のために評価をやっているのかを改めて問い直す必要がある。厚労省のためなのか、それとも皆さんが日頃おつきあいしている住民のためなのか。このあたりをしっかり見据えて仕事をする必要がある。
  評価のための評価であってはいけない。数字合わせとして終わらせるのではなく、事業をよくする、社会をよくする、そのためには失敗をもしっかり評価するという姿勢で日々の活動にとりくんでいくべきであろう。

コーディネーターより2

公衆衛生的な立場からの成果の評価とは?

大阪府立健康科学センター
健康生活推進部長 中村正和

  特定健診・特定保健指導では、メタボリックシンドロームの該当者とその予備軍の減少を目標として、それに到達するための事業評価指標が示されている。保険者がこの新しい制度を活用して生活習慣病の予防を推進するためには、事業の「公衆衛生的インパクト」(public health impact)を高めるという視点で事業の企画や評価を行うことが大切と考える。公衆衛生的インパクト=リーチ×効果である。この指標は、特定保健指導を例にすると、対象者のどれくらいの割合が指導を受け、かつ指導を受けた対象者の中でどの程度効果があがっているかを同時に考慮したもので、事業が集団全体としてどの程度の成果をあげているかを評価する上で有用である。例えば、特定保健指導を受けた人の中で体重や腹囲、検査値が一定レベルで改善した割合(効果)がたとえ80%と高率であっても、特定保健指導の実施率(リーチ)がもし20%に過ぎなければ、インパクトは計算上16%と低くなる。つまり、特定保健指導を受けた人だけに着目すると80%に効果があったと思えても、対象者全体の中で改善がみられたのは実は100人中16人に過ぎないことがわかる。今回の特定健診・特定保健指導のように、集団全体の指標の改善が求められる場合、この評価の視点は極めて重要である。
  このインパクトから派生した考え方として、「段階的介入モデル」(stepped care model)がある。このモデルは喫煙習慣への包括的な介入モデルとして、Abramsらにより提唱されたものである1)。この背景にある考え方はヘルスプロモーションに通じるもので、ポピュレーションアプローチを含めて、複数の介入方法によりインパクトの向上を図ることをねらいとしている。このモデルは、環境整備や動機付けの段階を含めると4つのステップから成る。
  まずステップ0では、マスメディア等による教育・啓発に加えて、生活習慣改善の動機を高め、その改善を支援する環境整備を行う。ステップ1~3は、行動変容の準備性の高まった者に対して生活習慣改善の具体的な支援を行うもので、その介入密度によって3つのステップに分けられる。ステップ1はセルフヘルププログラムの提供などによる簡易な働きかけ。ステップ2は健診や日常診療などの保健医療の場での専門職による短時間の対面支援。ステップ3は専門職による介入密度の高い支援である。今回の特定健診・特定保健指導ではそれぞれ、情報提供、動機づけ支援、積極的支援にあたる。
ステップ3のような集中的な支援は、一般に募集方式のプログラム(reactive program)で実施され、強く動機づけられた者が対象となる。そのため、ステップ1~3の中では最も高い効果が見込める。しかし、提供側のマンパワーの制約や、受け手側が支援を受けるための時間や費用の負担のため、参加人数が限られることが多く、大きなリーチは望めない。今回の特定保健指導では、階層化にあたっての基準が低く設定されているため、軽度の検査異常でもステップ3に相当する積極的支援の対象となる。また、階層化にあたって対象者の準備性は考慮されないため、基準を満たしたからといって指導対象としても、動機の低い者もいるため、果たして一様に効果があがるかどうか疑問である。例えば、検査異常が軽度でかつ動機の高まっていない積極的支援の対象者には、指導区分を1ランク下げて動機づけ支援から始めた方が脱落率が低く、費用対効果もよいかもしれない。
  これに対して、ステップ2の健診や日常診療の場での短時間の支援は、ステップ3のような高い効果は期待できないものの、既存の保健医療の場で専門職の方から働きかける方式(proactive program)であるため、リーチが大きくなる。その結果、地域や職域集団で得られるインパクトは、ステップ3に比べて大きいことが指摘されている1)。私たちの施設では特定健診の制度の導入前からメタボの有無に関わらず、健診当日にハイリスク者に対して小集団と個別を組み合わせて動機づけ支援相当の支援を行っているが、1年後のみならず効果が持続することを確認している2)。一般に積極的支援の内容の検討に関心や重点が置かれる傾向にあるが、リーチの大きさや対象者ならびに指導者の負担を考えると、効果的な動機付け支援のあり方についても検討する必要がある。
ステップ1の効果はステップ1~3の中で最も小さいが、マスメディアと組み合わせたり、ITを活用したりすることによりリーチを大きくすれば、インパクトを向上させることが望める。また、ステップ0の環境改善も一般に介入密度がそれほど高くないため効果は大きくないが、最も大きなリーチが期待できるので一定のインパクトが望める。例えば、喫煙を例にすると、職場の全面禁煙化で喫煙率が集団として4%減少すること3)や、たばこを10%値上げすることで高所得国では喫煙率が4%減少すること4)が明らかにされている。さらに、このような環境整備によって生活習慣改善の準備性も高まることが期待できる。
本稿で紹介した公衆衛生的インパクトや段階的介入モデルは、今回の特定健診・特定保健指導を生活習慣病対策としてどう位置づけて実施すればよいのかについて検討する上で有用と考える。環境整備と合わせて、介入密度やリーチの異なる複数のプログラムをうまく組み合わせて、地域や職域で集団全体としてのインパクトが高まるように生活習慣改善の支援体制を整備することが喫緊の課題として求められている。

  • 1) Abrams DB, Orleans T, Niaura RS, et al. Integrating individual and public health perspectives for treatment of tobacco dependence under managed health care: a combined stepped-care and matching model. Annals of Behavioral Medicine, 1996;18: 290-304.
  • 2) 中村正和, 増居志津子, 堀井裕子, 他.特定健診・特定保健指導の効果的な進め方. 総合健診, 2008;35: 23-31.
  • 3) Fichtenberg CM, Glantz SA. Effect of smoke-free workplaces on smoking behaviour: systematic review. British Medical Journal, 2002;325:188-194.
  • 4) World Health Organization. Raise taxes on tobacco. WHO report on the global tobacco epidemic, 2008. Geneva, Switzerland: World Health Organization, 2008;39.

コーディネーターより3

特定健診・特定保健指導のエビデンス構築に向けた研究者の役割

獨協医科大学公衆衛生学講座
武藤 孝司

  医療の世界ではEvidence-Based Medicine (EBM, 根拠に基づく医療)が行われている。すなわち、Aという治療を行えば、Bという確率でCという結果が得られるという科学的知見に基づいて医療活動が行われている1)。EBMが広く知られるようになって、ヘルスプロモーション・健康教育など保健の分野でも根拠に基づく活動が求められるようになってきている2)。しかし、医療分野と比較すると、ヘルスプロモーション・健康教育の領域では根拠に基づいて行われている活動は少ない。こうした状況では医療分野や財政担当部署からのヘルスプロモーション・健康教育活動に対する評価も低くなるであろうし、そうした活動に対する予算も付きにくくなる。特定健診・特定保健指導についても、提示されている方法に従って行えば効果があるという明確な根拠がないままに実施されているのが現状である。

  それでは、根拠はどこにあるのかと言うと、権威のある学術誌に掲載された学術論文に求める他はない。権威のある学術雑誌というのは、少なくとも査読のある学術誌であり、インパクトファクターが付いていればさらに良く、一般にはそれが大きいほどレベルの高い学術誌とされている。そうしたレベルの高い学術誌に掲載されるためには、妥当性の高い研究デザインを用いた介入研究であることが必須である。無作為割付比較試験(Randomized Controlled Trial, RCT)が最も妥当性の高い研究デザインであるが、無作為割付が無理な場合でも少なくとも比較対照群のある準実験デザインによる介入研究が望ましく、比較対照群のない前後比較デザインでは、介入の効果を論じることは難しい。

  こうした研究を行い、特定健診・特定保健指導の効果を求めて、こうした活動に根拠があることを示すのは研究者の役割であろう。しかし、これは研究者だけで出来ることではない。特定健診・特定保健指導が行われるのは職場や地域であるため、第一に現場責任者の了解を取る必要があり、その実務を担当するのは保健師や管理栄養士であるためである。従って、現場の第一線で働くこうした人々の研究への協力がなければ、妥当性の高い研究は出来ない。特定健診・特定保健指導の効果を科学的に評価しようとする介入研究を行うためには、事業として特定健診・特定保健指導を実施するために必要な業務に加えて、衛生委員会で研究実施の承認を得るための資料を作成したり、対象者からインフォームドコンセントを取るといった追加業務が発生するためである。更に、保健指導プログラムが研究計画どおり実施されるかどうかは保健師や管理栄養士の働きにかかっている。

  昨年4月から始まった特定健診・特定保健指導は壮大な社会実験であると考えられる。そのプログラムの効果に関する科学的評価を行って、それが効果的であるという結果が得られれば、この分野における一つの根拠を得たと言えるであろう。メタボリック症候群はわが国だけの問題ではなく、世界共通の問題となっている。従って、得られた根拠は世界中で役立つ可能性を秘めている。もし効果が見られなかった場合には、その理由を検討することによって、プログ
ラムの改善に役立てることが出来る。このように、ヘルスプロモーション・健康教育の具体例である特定健診・特定保健指導のエビデンス構築は研究者の責務であると言えよう。
文献
1)福井 次矢編.EBM実践ガイド.医学書院,1999.
2)A Report for the European Commission by the IUHPE. The Evidence of Health Promotion Effectiveness. ECSCE-EAEC, 1999.

コーディネーターより4

「評価」における研究者の役割とは?

女子栄養大学 栄養学部 武見ゆかり

  特定健診・特定保健指導の開始から約1年,さまざまな課題や不安を抱えながらも,全国の地域や職域で健診が行われ,その判定に基づく保健指導がようやく始まったところである.2月14日の参加型交流セミナーの状況からは,まだまだ「実施」段階での悩みや課題が現場では多く,「評価」までじっくり考える段階に至っていない様子がうかがえた. 
  そもそも何のために評価を行うのか?それは、自分たちの仕事の効果を見極め,誰が良い結果を得て,誰が得なかったのかを明らかにし,また,そのような結果が生じた要因をも明らかにして,次の仕事の方法や内容を高めるために行うものである.単純に「成功」とか「失敗」とか決めつけることではない1).したがって,特定保健指導においては,対象者に期待される生活習慣(行動)の変化,体重や検査値の変化を明らかにすると同時に,実施方法や指導内容などのプロセス評価も重要となる.こうした評価を行っていく上で,研究者の果たすべき役割とは何だろうか.

1)エビデンスレベルの高い評価デザインを用いた効果検証
  行動や体重の変化を検討する上で,現場では,対照群を設定した評価デザインで効果測定を行うのは難しい場合が少なくない.研究的な評価は,むしろ研究者の役割といえよう.研究として報告された評価結果を受けて,現場での取組み方法を吟味し,対象者の変化を追いかける.研究結果と同じような変化がみられたのか,みられなかったのか.みられなかったとすれば何が違ったのか,などを明らかにしていく.こうした評価が蓄積することで,保健指導全体としての底上げにつながると期待される.
  例えば,最近の日循予防誌に,工場勤務の男性従業員を対象とし,内臓脂肪減少を目的とした比較的負担の少ないの3ヶ月間の保健指導プログラムを開発し,その効果を食行動,身体活動,腹囲,BMIの変化から評価した論文2)が掲載されていた.評価デザインは交差法の無作為割付比較試験(RCT)であり,恐らく,研究として十分吟味されたプロトコールで実施された仕事と思われた.
この論文で興味深かったのは,食事指導内容及び評価指標が食行動レベルで明確な点であった.すなわち,エネルギーの過剰摂取を減らすことに焦点を絞り,①間食,②甘いデザート,③脂身の多い肉,④揚げ物・炒め物,⑤砂糖入り飲料,以上5つの食物の摂食回数を減らすことを中心に食事指導を行い,これら5項目摂取回数,及び,野菜を食べる回数,主食・主菜・副菜のそろう食事の変化を評価していた.その結果3ヵ月後の評価では野菜の摂取回数以外で有意な変化がみられ,介入群と対照群の間で体重,腹囲,BMIに有意な変化量の差(減少)がみられていた.また,その後9ヶ月後までの食行動変容,及び腹囲,体重減少の維持も報告されていた.
  この方法は,今回の「標準的な特定健診・保健指導プログラム」の中で提案されている「引き算方式」の減量方法である。指導項目は保健指導対象者自身が「できた」「できなかった」「何回食べる」と容易かつ的確にセルフモニタリングできる食行動レベルの項目になっている.「引き算方式」とは,私がある原稿2)の中で使った表現でもある。この方式では、丁寧な食事調査を行ってエネルギー量等を算出してから減量目標を立てるという方法はとらない。現在のエネルギー摂取量がどれだけであろうと,その摂取量が現在の体重を維持,或いは増加させている摂取量なのだから,そこから何kcalのエネルギー量を減少させるか,そのためにどの行動,どの食べ方を変えるか,といういわば引き算の考え方で減量計画を立てるやり方のことをいう.その際の行動目標は,対象者自身が「容易に,手軽に,正しくモニタリングできる」食行動レベルが望ましいとする。その例として,多くの研修会では,食事バランスガイドの「ヒモ食べ過ぎタイプ(食事バランスガイドでは菓子・嗜好飲料はコマの紐として表現されている)」と「主菜食べ過ぎタイプ」の話をしてきた.上記の論文が食事指導の要点とした5つの食行動のうち,①②⑤は「ヒモ」に,③④は「主菜」に関連した内容である.
  その後,著者の奥田氏とメールで情報交換したところ,「保健師だけでもできるような指導法」をと考えて実施した,とのことであった.特定保健指導では食生活指導が重要となる場合が多いであろう。しかし,いつも管理栄養士が関われるというわけではない.したがって,このような食行動レベルの影響評価結果が,質の高い評価デザインで検証され,どの食行動の変化が,身体計測値や血液検査のデータの改善に結びつくかがピンポイントで明らかになれば,それは,実践現場の食生活指導内容をより具体的に,効果的にすることに役立つと期待される.これは研究者がやるべき「評価」の1つの例といえよう.

2)非成功事例の詳細な分析と蓄積
  一方で,もう1つ考えるべきことは,同じような生活指導をしても,変わらなかった人は必ず出てくる,という点である.その人たちがなぜ変わらなかったのか,変われなかったのかをきちんととらえること,その要因を分析することも,私たちがやらねばならない重要な「評価」の中身である.論文や報告には「成功事例」が多い.うまくいかなかった,効果がなかった,では論文になりにくく,投稿しても不採択となる場合が多いからだ.しかし,変われなかった人,すなわち「非成功事例」に正面から取り組む研究もまた必要であろう.
  実際,私たちの研究班3)で,職場の肥満勤労男性を対象に,週に3回,3ヶ月間,食事バランスガイドに基づいたバランス弁当(主食,副菜,主菜が各2SVで,エネルギー量が約700kcal)を食べてもらい,同時に,メタボリックシンドロームや食事,身体活動などに関する情報提供用メッセージカード(B6サイズ,両面)を毎回1枚ずつ提供する介入プログラムを実施し,事前・事後,1年後までの体重,腹囲の変化を評価したことがある.その結果、期待通り体重が減少した人もいれば,変わらなかった人もいた.質問紙調査の結果と合わせて解析した結果,どうやら,プログラム終了後に「自分の1食の適量がわかった」という人に体重減少に成功した人が多いこともわかってきた.しかし,同じ体験(学習)をしても,「適量がわかる」人と「わからない」人が出てくるのはなぜか?そこまでの要因分析は十分にはできていない.
  このような,こちらの予想通り(勝手な期待通り?)に変わらなかった人の要因分析を,心理的要因(健康に関心がない,すべてにやる気がない,人生に希望がない,など),及び社会的要因(ワーキングプア等の経済的困窮,家族関係が悪い,友人がいないなどソーシャルネットワークが貧弱,食物入手環境でavailability, accessibilityが低い,など)も含めて検討していくことに正面から取り組む研究を,今年度より厚生科学研究費補助金を得て始めることが可能になった.これによって,個人の努力だけではどうにもならない要因,すなわち社会経済的要因などの環境要因を明らかにすることができるようになる.恐らくそれは,特定保健指導対象外の人,つまり情報提供レベルの人も含め,より多くの人々(集団)の望ましい生活習慣の形成に関連する要因でもありうる.今後,新しい研究に取組む中で,メタボリックシンドロームに焦点を当てた特定健診・特定保健指導を推進していく上で,同時に取組まねばならない環境整備は何かを突き詰め,政策提言していくことにつなげたい.これもまた研究者の役割の1つであろう.
  最後に,ここから得られる研究成果は「非成功事例」を扱った論文や質的評価の研究論文として発表していくことになるであろう.日本健康教育学会誌こそ,そうした論文を積極的に発表できる学術誌であろう,と期待し信じている.

  • 引用文献
  • 1)Hawe P, Degeling D, Hall J. 鳩野洋子,曽根智史訳.ヘルスプロモーションの評価 成果につながる5つのステップ.東京:医学書院,2003;3-19.
  • 2)奥田奈賀子,岡村智教,門田文,他:内臓脂肪減少を目的とした軽負担の保健指導が男性工場従業員の食習慣に及ぼす変化.日循予防誌 2009;44:10-21.
  • 3)武見ゆかり.内臓脂肪を減らす食生活指導.門脇孝・島本和明・津下一代・松澤佑次編.メタボリックシンドロームリスク管理のための健診・保健指導ガイドライン.東京:南山堂,2008; 149-158.
  • 4)武見ゆかり.平成19年度厚生労働科学研究費補助金 循環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業「食事バランスガイドを活用した栄養教育・食環境づくりの手法に関する研究」報告書.2008;78-180.
  • 特定健診・特定保健指導の現状と期待

―参加型交流セミナーにおける参加者からの声―

獨協医科大学公衆衛生学講座
春山 康夫

  特定健診・特定保健指導制度が開始されてから間もなく1年になる。昨年行われた第1回のセミナーに引き続き、第2回セミナーが2月14日に東京大学教育部赤門総合研究棟にて開催された。第2回セミナーのテーマは「どう取り組むか!特定健診・特定保健指導~“成果”をどう“評価”するか?みんなで考えよう!話し合う!共有しよう!~」であった。

  前回のセミナーと同様、当日の参加者は多職種にわたり、保健師、管理栄養士、薬剤師、歯科医師、医師、大学研究者、健康サービスの関係者や学生など、合計54名が参加した。多くは、特定健診・特定保健指導の第一線である健康保険組合、企業(事業所)の健康センター、国保、行政機関、或いは健康サービス提供事業のスタッフであった。

  セミナーは、日本健康教育学会の衛藤隆理事長の挨拶の後、座長の岩永俊博、武見ゆかりの両氏の進行の元で進められた。前半では、まず職域、地域及び行政の立場から3名が特定健診・特定保健指導における現場での話題を提供した。そして、参加者をいくつかのグループに分け議論した後、特定健診・特定保健指導の現状に関する質問や意見を発表してもらい、それに対してゲストコメンテーターが専門的な立場からコメントを述べた。後半では、交流セミナー準備委員会の4名のコーディネーターが成果と評価について問題提起・コメントをした後に、フロアの参加者を交えて議論し、最後はコーディネーターのまとめで終了した。

  フロアからは、特定健診・特定保健指導の“成果”と“評価”に関する質問や意見以外に、特定健診・特定保健指導を未だ実施できないでいるという状況や、実施しているものの、現在、現場で生じている問題点、そして学会として発信してほしいニーズなどが多く寄せられた。ここでは、主に現場の生の声を、特定健診・特定保健指導の初期(計画立案から健診階層化まで)、中期(保健指導実施)、後期(成果と評価)及び全体・政策面に分けて整理してみた。

  特定健診・特定保健指導の初期段階において、特定健診・特定保健指導を4月から始めたところでは、事前にしっかり計画を立て、直営かアウトソーシングを決め、マンパワーに見合った対象者数で実施していた。セミナーで紹介された特定健診・特定保健指導の実施規模は、十数人から万単位と様々であったが、そのうち、1人の専門スタッフが保健指導を受け持つ対象者の人数は平均で30名程度であった。一方、階層化まで時間がかかったということで特定健診・特定保健指導のスタートが秋になったところも多かった。まだ実施していないところでは、(1)システム関係などの不備で、階層化が出来ていない、(2)多くが抱える問題だがマンパワーが極端に不足していることなどが挙げられた。例えば、ある人口5万人の都市からは、担当者が保健師2人、管理栄養士1人の合計3名のみであり、特定保健指導の時間を取れないのが現状であるということが伝えられた。また、ある健康保険組合には保健師が一人しかおらず、「扶養家族に対する健康診断」への対応で精一杯で、保健指導ができないという厳しい状況もあった。初期段階におけるもう1つの重要な問題は、受診率の低さである。一部の被扶養者を含めて受診率が8割を超えるという単一健保の上場企業もあったが、多くの地域が、どのよう
に受診率を向上させたらよいのかという悩みを抱えていた。中には、個別訪問や家庭訪問を実施して受診率を確保している市町村もあった。

  特定健診・特定保健指導の中期段階においては、階層化に関するシステムの精度及び健診データの問題がある。例えば、階層化まで上がってきた対象者の多くが受診勧奨レベルの人であったり、前年度の健診データを使った場合はメタボに該当しないのに、なぜ受けないといけないのかと言われるケースもあった。ある地域では、保健指導を希望する方として、60、70年代の高齢者が多く、彼らにどこまで積極的に指導ができるのかとの悩みを抱えていた。一方、本人のモチベーションの問題もある。ある事例では、500件のうち13名が積極的支援に該当していたが、実際、支援の申込者は2名のみで15.4%であった。動機付け支援の場合は、1回の面接だけで行動変容を起こすことは困難であり、時々電話をかけたり、必要な場合には面接を行うなどの工夫が必要であるとの意見が出た。一方、健診後のフォローや個別相談には限界があり、行動変容のための環境づくりが重要であるというコメントもあった。

  特定健診・特定保健指導の後期段階に関しては、実施した結果を評価しているところはいまだ少ないようで、実際セミナー参加者の間でも評価まで実施したところは殆んどなかった。しかし今回、様々なコメントの中で、成果と評価について触れられた。成果及び評価の項目として挙げられたのは、受診率、申込率、実施率、専門スタッフ一人当たりの指導人数・対象者10人当たり必要とする専門スタッフの人数、脱落率、脱落の原因、対象者のニーズ、成功例、失敗例、体重変化量、行動変容の有無、健康診断の結果、数値目標の変化などであった。また、特定健診の評価を無視するというわけではないが、今までやってきた保健活動を継続していく予定であるという声もあった。一方、評価は地味で面倒とのイメージがあり、誰もやってくれないという意見もあった。
全体及び政策面に関しては、特定保健指導に関わる保健師、管理栄養士の間での役割分担、歯科衛生士の役割の不明確さなどが問題点として挙げられた。また、特定健診・特定保健指導と他の保健活動をどう連携させるのか、どう整合化していくのかの検討が必要であり、現在のままでは高齢者の問題、がん検診に対する対応が遅れてしまう可能性があることが指摘された。産業保健の現場では、労働安全衛生上の課題がある。例えば、メンタルヘルスと特定保健指導、どちらを優先させるのか、その判断が難しい。特定健診・特定保健指導制度は、国民のニーズを調査せず一部の役人と研究者でのみ作成されたものであり、現場としては非常に困っているという厳しいコメントもあった。また、日本健康教育学会として、特定健診・特定保健指導についてもっと提案、助言すべきであるという意見も寄せられた。

  現場の担当者は様々な問題を抱えており、この1年は、ある参加者が言ったたように「波乱の1年」の一語でまとめても過言ではない。しかし、現場スタッフの戸惑いや不安を解消するためには、現段階での実情を把握し、現場での問題点を共有した上で改善策を講じていくことが非常に大切であると感じた。その意味では、今回のセミナーでは現場の声が反映され、ゲストコメンテーター、コーディネーターの発表、そして参加者の発言、意見などから今後どうするべきか、どう改善すべきかのヒントが得られたのではないかと思われる。特定健診・特定保健指導をヘルスプロモーション・健康教育の一大実践と考えれば、今回の交流セミナーで、成功・不成功に関わらず、また政策の枠組みにとらわれず、その実施の内容や成果について意見を出し合い、評価についても不充分ながら議論できたことは大変有意義であった。最後に、今回、議論に熱心に参加していただいた参加者の皆様に深く感謝したい。